本記事は生成AIと共同で執筆しています。事実関係は可能な範囲で公式ドキュメント等と照合していますが、誤りが含まれている可能性があります。重要な判断を行う前にご自身でも一次情報をご確認ください。 なお本記事の数値は、特記のない限り 2026年8月20日時点の実測です。

データに数値が1つ載っているとき、その数値がどれくらい信用できるかを、同じデータの中に書き残したいことがあります。

「この工場の CO2 排出量は年間 1,200 トンである」と書いたとき、それは実測値なのか、業界平均からの按分なのか、誰かの見積もりなのか。多くの場合この区別は報告書の脚注に沈み、数値だけが機械可読な形で流通します。

ライフサイクル評価(LCA、Life Cycle Assessment。製品の資源採取から廃棄までの環境負荷を積み上げて計算する手法)の分野には、この問題に対する仕組みが30年前からあります。ペディグリー行列(pedigree matrix)です。データの素性を複数の指標について1~5の段階で採点し、その採点を分散に足し込んで95%区間の幅に機械的に変換するという設計です。

この記事で確かめたいのは一点だけです。

この行列は「測ったが質が低かった」と「そもそも測っていない/分からない」を書き分けられるか。

結論から書くと、書き分けられません。しかもそれは実装の都合ではなく、行列の各セルの文言そのものに or で埋め込まれた設計です。以下、仕様書の原文と実装コードで追います。

5つの採点が95%区間の乗数になるまでの流れ図。左から、reliability を 3、completeness を 4、temporal correlation を 2、geographical correlation を 1、further technological correlation を 3 と採点する。次に ecoinvent の Data Quality Guideline の Table 10.5 を引いて、それぞれ分散 0.002、0.002、0.0002、0.000、0.008 を得る。基礎不確実性の分散 0.0006 を足すと合計 0.0128 になる。これを exp の肩に乗せて二乗すると 95%区間の乗数 1.2539 が出る。1,200 トンなら 957 トンから 1,505 トンの範囲になる。


参照した版について(先に断っておきます)

原典とされるのは次の論文です。書誌は Crossref(DOI 登録機関)の API で確認しました。

Weidema, B. P., & Wesnæs, M. S. "Data quality management for life cycle inventories—an example of using data quality indicators." Journal of Cleaner Production, 4(3-4), pp. 167-174, 1996. DOI: 10.1016/S0959-6526(96)00043-1

この論文は有料で、私は本文を入手できませんでした。Unpaywall(論文のオープンアクセス版の有無を答える公開 API)は is_oa: false、リポジトリ版も無しと返します。そこで本記事では、次の2つを代替の一次資料として使います。どちらも公開 PDF が手に入り、行列の全セルが読めます。

以下でたびたび出てくる ecoinvent は、スイスの ecoinvent association が提供する LCA 用のインベントリデータベースです。この分野で最も広く使われており、ペディグリー行列の運用も事実上ここの実装が基準になっています。

使う資料何の版か
Weidema ほか(2004)Procedural guideline for collection, treatment, and quality documentation of LCA data, ENEA, Table 4.1著者自身による行列の再掲。表題に「(Weidema, 1998)」とあり、1998年改訂版にあたる
ecoinvent report No. 1, Data v2.0(2007)Tab. 7.3 / 7.4ecoinvent v2 が採用した版(6指標)と、不確実性係数の実数
ecoinvent Data Quality Guideline v3(2013)Table 10.3 / 10.4 / 10.5ecoinvent v3 が現在使っている版(5指標)と、分散の表
EcoSpold02 スキーマ version="2.0.14"機械可読な正本。EcoSpold は LCA のインベントリデータを交換するための XML 形式で、ecoinvent が定めている

1996年版と1998年版の差分は確認できていません。ただし後述するとおり、私が確かめたかった性質は、この3つの版すべてに共通して現れます。

なお、行列の系譜は ecoinvent 自身が明記しています。

Table 10.4 is called a pedigree matrix (after Funtowicz & Ravetz 1990) since the data quality indicators refer to the history or origin of the data, like a genealogical table reports the pedigree of an individual.

「ペディグリー」(血統)という語は、科学的知見の質を記述する NUSAP(Numeral / Unit / Spread / Assessment / Pedigree)という記法体系から来ています。また ecoinvent v3 の行列の表題は modified from Weidema 1998) で、1996年版ではなく1998年版を出典に挙げています。


本題:スコア5のセルに何が書いてあるか

行列の各セルを、スコア5の列だけ抜き出して並べます。原文をそのまま引きます。太字は引用者によるものです。

Weidema 自身の版(2004年ガイドライン Table 4.1、1998年改訂版の再掲)

指標スコア5の原文
Reliability of sourceNon-qualified estimate or unknown origin
CompletenessRepresentativeness unknown or incomplete data from a smaller number of sites and/or from shorter periods
Temporal correlationAge of data unknown or more than 15 years of difference
Geographical correlationData from unknown area or area with very different production conditions
Further technological correlationUnknown technology or data on related processes or materials, but from different technology

5指標のうち5指標すべてで、スコア5の定義に unknown が入っています。しかもいずれも or で、「分かっているが悪い状態」と並列に置かれています。

  • 「出所が不明」と「無資格の推定」は同じ5点
  • 「代表性が不明」と「少数サイト・短期間のデータ」は同じ5点
  • 「年代が不明」と「15年以上古い」は同じ5点
  • 「地域が不明」と「生産条件が大きく異なる地域」は同じ5点
  • 「技術が不明」と「異なる技術の関連工程データ」は同じ5点

ecoinvent v2 の版(report No. 1, Tab. 7.3)

指標スコア5の原文
ReliabilityNon-qualified estimate
CompletenessRepresentativeness unknown or data from a small number of sites AND from shorter periods
Temporal correlationAge of data unknown or more than 15 years of difference to our reference year (2000)
Geographical correlationData from unknown OR distinctly different area (north america instead of middle east, OECD-Europe instead of Russia)
Further technological correlationData on related processes or materials but on laboratory scale of different technology
Sample sizeunknown

6指標のうち4指標に unknown が入っています。Reliability は Weidema 版にあった「or unknown origin」が落ちています。

そして Sample size のスコア5は、セルの中身が unknown の一語だけです。この指標の1~4は「>100, continous measurement」「>20」「> 10, aggregated figure in env. report」「>=3」という標本数の階段で、その階段の一番下が「分からない」になっています。標本数が3未満だと分かっている場合を書く欄はありません。

ecoinvent v3 の版(Data Quality Guideline, Table 10.4)

v3 は Sample size を削って5指標に戻しました。残る指標のスコア5は v2 とほぼ同じで、completeness・temporal・geographical の3つに unknown が入っています。そして列見出しがこうなっています。

Indicator score      1       2       3       4       5 (default)

最悪値の列が (default) です。採点しない場合に落ちる先が最悪値である、と表の見出しに書かれています。EcoSpold02 のスキーマも同じで、reliability 属性の説明に 5=Non-qualified estimate (default) とあります。

「不明」専用のスコアや欠損値は無い

3つの版すべてを確認しましたが、「採点できない」を表す専用の値はどこにもありません。

  • ecoinvent v2 の本文:「Each characteristic is divided into five quality levels with a score between 1 and 5.」
  • ecoinvent v3 の本文:「a set of five indicator scores is attributed to each individual input and output exchange (except the reference products) reported in a data source」
  • EcoSpold02 スキーマ:5属性すべてが use="required"、型は xsd:integerminInclusive=1 / maxInclusive=5xsd:nillable の指定も無し
<xsd:attribute name="reliability" use="required">
  <xsd:simpleType>
    <xsd:restriction base="xsd:integer">
      <xsd:minInclusive value="1" />
      <xsd:maxInclusive value="5" />
    </xsd:restriction>
  </xsd:simpleType>
</xsd:attribute>

0 も、n/a も、nil も存在しませんpedigreeMatrix 要素そのものは minOccurs="0" で省略できますが、それは「品質情報を付けない」であって、指標ごとに「採点できない」と言う手段ではありません。

なお ecoinvent v2 の報告書には n.a. not applicable という凡例がありますが、これは分布パラメータの表(三角分布に standardDeviation95 は無い、など)に付いたもので、ペディグリーの採点に対するものではありません。

結論:「不明」は最悪スコアに写像されます。専用の状態は用意されていません。


PACT も同じ潰し方をしている

これが1つの仕様の癖なのか、分野の性質なのかを分けたいので、別系統の枠組みと突き合わせます。

製品カーボンフットプリントの交換仕様 PACT(WBCSD の Partnership for Carbon Transparency)は、データ品質指標(DQI)を5次元でレコードに持ちます。その方法論は、DQI の出自として「最も一般的な枠組みはペディグリー行列(ecoinvent)である」と名指ししています。つまり同じ系譜です。

PACT 方法論 v3.0 の §4.2 に、次の規定があります。

If upstream PDS and DQRs are unknown, companies shall apply the worst-case scenario (i.e., 0% PDS and 5 DQR)

上流の値が不明なら、最悪値を適用せよ」と明文で書かれています。そして品質評価行列のスコア5のセルにも、ペディグリー行列と同じ or unknown の形が現れます(different or unknown technology>4 years or unknown など)。

独立に作られた2つの枠組みが、同じ場所で同じ潰し方をしています。片方だけなら実装の癖と読めますが、両方に現れるなら、これは「数値の品質を等級で表す」という設計そのものが持つ性質だと考えるほうが自然です。

理由は難しくありません。等級は数値に付ける修飾であって、数値の不在を表す場所ではないからです。等級を付けるには、まず等級を付ける対象の数値が要ります。数値が無ければ行そのものが無く、行が無いことは「その量が本当にゼロである」ことと区別がつきません。


変換:採点を分散に足し込む

「不明」が最悪値に写像されると何が起きるのかを見るために、変換の中身を追います。

変換の表

ecoinvent v3 の Table 10.5(p.77)です。表題を原文のまま引きます。

Table 10.5. Uncertainty factors (variances of the underlying normal distributions) used to convert the data quality indicators of the pedigree matrix in Table 10.4 into additional uncertainty.

Indicator score12345
Reliability0.0000.00060.0020.0080.04
Completeness0.0000.00010.00060.0020.008
Temporal correlation0.0000.00020.0020.0080.04
Geographical correlation0.0002.5e-50.00010.00060.002
Further technological correlation0.0000.00060.0080.040.12

この25個の数値の出所を、報告書は同じ段落で明言しています。

A normal uncertainty distribution is attributed to each score of the five characteristics. Each of these distributions has a mean value of zero, and a variance based on expert judgement, and shown in Table 10.5.

専門家判断に基づく分散」。基礎不確実性(素性とは無関係に、その種の量に本来備わるばらつき。Table 10.3 に交換の種類ごとの既定値がある)についても同じです。

The basic uncertainty factors are based on expert judgements.

v2 の版では同じ表が「幾何標準偏差の2乗への寄与」(幾何標準偏差は、対数正規分布のばらつきを「平均値の何倍まで」という掛け算の形で表す指標)を表す係数として書かれていました(reliability が 1.00 / 1.05 / 1.10 / 1.20 / 1.50 など)。報告書は表現の変更を「数学的に同一」と説明しており、実際 分散 = (ln U / 2)² で対応します。私が全セルで確かめたところ、印字されている丸めの範囲で一致しました。

計算式

各分布が独立とみなせるので、分散は足し算になります。

σ² = Σ (n = 1..6) σ²ₙ

  σ²₁ : 基礎不確実性(Table 10.3)
  σ²₂ : reliability
  σ²₃ : completeness
  σ²₄ : temporal correlation
  σ²₅ : geographical correlation
  σ²₆ : further technological correlation

この「6」は基礎不確実性を含めた数で、指標は5つです。v2 では指標が6つあったので混同しやすい箇所です。この σ² が EcoSpold02 の varianceWithPedigreeUncertainty(フィールド 2104)に入ります。報告される散らばりはそこから導かれます。

σ    = √(σ²)
GSD  = exp(σ)              ← 幾何標準偏差
SD95 = GSD² = exp(2σ)      ← 95%区間の乗数

最後の SD95 は幾何標準偏差そのものではなく、その2乗です。「平均値の何倍から何分の1までの範囲に95%が入るか」を表します。

ecoinvent 自身の計算例を再現する

ecoinvent は計算例の Excel を公開しています。基礎不確実性 0.01、採点 (2, 2, 1, 5, 1) で、答えは 1.25281 です。

基礎不確実性                       0.01
reliability      2  →  0.0006
completeness     2  →  0.0001
temporal         1  →  0.000
geographical     5  →  0.002
further tech.    1  →  0.000
--------------------------------------
σ²                                0.0127
SD95 = exp(2 × √0.0127)         = 1.25281   ← 公開値と一致

一致しました。式と表の読み方が合っていることの確認になります。

別の採点で計算する

(3, 4, 2, 1, 3)、交換は電力や半製品のような技術圏入力(基礎不確実性 0.0006)とします。

スコア分散
基礎不確実性(Table 10.3)0.0006
reliability30.002
completeness40.002
temporal correlation20.0002
geographical correlation10.000
further technological correlation30.008
σ²(合計)0.0128
σ    = √0.0128            = 0.1131371
GSD  = exp(0.1131371)     = 1.1197854
SD95 = GSD²               = 1.2539194

95% は平均値の 1/1.254 倍から 1.254 倍の間に入る、という結果です。1,200 トンなら約 957 ~ 1,505 トン。

ここが要点です。5つの採点は、この1つの数に潰れます。どの指標が悪かったかは合計された分散からは復元できません。そして、そのうち「不明だったから5点を付けた」指標があったかどうかも、当然ながら復元できません。

どう採点しても有界の区間が出る

1から5までのどのスコアにも有限の分散が対応しています。全指標を5点にして基礎不確実性を 0.0006 とすると σ² = 0.2106、SD95 は 2.52 です。1,200 トンなら 476 ~ 3,024 トン。

つまり、全部が「不明」でも「95%はこの範囲に入る」という有界の主張が出力されます。「観測点が無いので、いかなる区間も主張できない」を表す出力は、この仕組みには存在しません。


提案者自身は、この使い方に留保をつけていた

ここまで見た「採点を既定の係数表で分散に写す」という運用について、Weidema 自身が2004年のガイドラインで書いていることがあります。

It is generally not meaningful to pre-assign CVs to each pedigree score (i.e. to define a default matrix of CV estimates), as the score assigned will depend on the nature of the specific data sample under consideration.

CV は coefficient of variation、変動係数(標準偏差を平均で割ったもの)です。

続けて、同じスコア4でも、技術間のばらつきが大きいと分かっている量なら変動係数 0.6、小さいと分かっている量なら 0.1 になりうる、という例を挙げています。「既定の係数表を作ること自体が一般には意味をなさない」という指摘です。ecoinvent がやっているのは、まさにその既定の係数表です。

同じ文書には、スコアが量ではないという注意もあります。

the DQI scores do not represent a "quantity" of uncertainty, so it is only their influence and not the scores themselves that are additive

さらに遡ると、1998年の多人数試験の論文で Weidema が推奨した用途は、次のものでした。

the pedigree matrix to be recommended for internal data quality management and for comprehensive communication of quality assessments of large amounts of data

内部的な品質管理と、品質評価の伝達。確率分布を導くこと、とは書かれていません。

この読み違いは、後続の批判の中心にもなっています。

Lo Piano, S., & Benini, L. "A critical perspective on uncertainty appraisal and sensitivity analysis in life cycle assessment." Journal of Industrial Ecology, 26(3), pp. 763-781, 2022. DOI: 10.1111/jiec.13237

Contrary to what was proposed by Weidema and Wesnæs (1996), the quality of a parameter(…)or its geographical representativeness says little about whether its standard deviation should be increased by a factor 2, 10, or 100, and it does not indicate which shape the probability distribution functions should have. The variability of a certain phenomenon might have literally nothing to do with the quality of the underpinning mode of measurement/estimation.

Yet, it is important to remind that the original developers and proponents of the pedigree matrix approach (Funtowicz and Ravetz, 1990; van der Sluijs et al., 2005) designed it as a knowledge quality assessment tool.

認識論的な不確実性と確率的なばらつきを混同することについても書いています。

Epistemic uncertainty may significantly influence modelled quantities, but it cannot be reduced to stochastic uncertainty. Adopting the pedigree coefficient as a multiplicative proxy has a mere psychological effect. It reassures practitioners and decision-makers by making uncertainty seemingly manageable, providing a sense of confidence in LCA.

係数の実証的裏づけが無いことは、ecoinvent の委託で再検討を行った当事者も書いています。

In ecoinvent 2 the uncertainty factors were provided based on expert judgment, without (documented) empirical foundation. — Ciroth, A., Muller, S., Weidema, B., & Lesage, P. (2016), Int. J. LCA 21(9), pp. 1338-1348

採点の再現性についても指摘があります。

Weaknesses, however, lie in unrepeatable scoring criteria, aggregation of data quality information in a way that is difficult to interpret or misinterpreted and the use of data quality information in the estimation of uncertainty with no basis for accuracy. — Cooper, J. S., & Kahn, E. (2012), Int. J. LCA 17(4), pp. 499-503


「扱っていないもの」の一覧から、それは消えた

ecoinvent の報告書には、この不確実性評価が扱っていないものを列挙した節があります。v2 と v3 で中身が違います。

ecoinvent v2(2007)§7.4 Limitations of the uncertainty assessment — 3項目。

The approach for the assessment of uncertainties does not take into account the following factors which determine also the overall uncertainty(…) ・Missing information in the inventory table. ・Inappropriate modelling for the necessary inputs and outputs(…) ・Mistakes imposed by human errors(…)

先頭に「インベントリ表に情報が欠けていること」が挙がっています。扱えないものとして、明文で認められていました。

ecoinvent v3(2013)§10.3 Limitations of the uncertainty assessment — 2項目。

Model uncertainty: The model used to describe a unit process may be inappropriate(…) ・Mistakes imposed by human errors(…)

「情報の欠落」の項目が消えています。

なぜ消えたのかを説明する記述は、私が読んだ範囲では見つけられませんでした。v3 が「カットオフ規則を持たない」方針(§5.10 No cut-offs、「Datasets are as complete as(…)」)を採ったことと関係する可能性はありますが、推測であって確認した事実ではありません。

いずれにせよ、現行の v3 では、「観測点が無い量」は、扱えないものとして挙げられてすらいません。


実装:ツールごとに「不明」の行き先が違う

Weidema 2004 ガイドライン Table 4.1 のスコア5の列を、5指標について「分からない」側と「分かっているが悪い」側に分けて並べた表。Reliability of source は「unknown origin」or「Non-qualified estimate」。Completeness は「Representativeness unknown」or「incomplete data from a smaller number of sites」。Temporal correlation は「Age of data unknown」or「more than 15 years of difference」。Geographical correlation は「Data from unknown area」or「area with very different production conditions」。Further technological correlation は「Unknown technology」or「data on related processes, different technology」。5指標すべてで両側が同じ5点であり、同じ分散を受け取るため、合計されたあとはどちらだったか復元できない。ecoinvent v2 の Sample size に至っては、スコア5のセルの中身が unknown の一語だけ。図の下段は EcoSpold02 の入れ子で、exchange(数値が1つある)→ uncertainty(分布を必ず1つ選ぶ)→ pedigree の順。採点できるのは、すでに数値があり、すでに分布が選ばれている場所だけで、観測点が無ければ行そのものが無く、その量が本当にゼロであることと区別がつかない。

仕様に「不明」の置き場が無い結果、実装は各自で埋めています。しかも向きがばらばらです。

Brightway — 不明は「最良」になる

Brightway(Chris Mutel による Python の LCA フレームワーク)の専用パッケージ pedigree_matrix は、文字列から採点を読むときに例外を握りつぶして 1 を返します。

def as_integer(x):
    try:
        return int(x)
    except:
        return 1

テストがこの挙動を明示的に固定しています。

def test_all_na(self):
    s = "(na,na,na,na,na)"
    self.assertEqual(fpm(s), (1, 1, 1, 1, 1, 1))

「採点の根拠が無い」が「考えうる最高品質のデータ」として符号化されます。ecoinvent の「不明=5点」とは逆向きです。

なおこのパッケージは Python 3 では計算まで到達しません。実行して確認しました。

{'reliability': 3, 'completeness': 4, 'temporal correlation': 2,
 'geographical correlation': 1, 'further technological correlation': 3, 'sample size': 1}
AttributeError: 'dict' object has no attribute 'iteritems'

get_values() が Python 2 の dict.iteritems() を呼んでいるためです。最終 push は 2022-06-16 です。

本流の bw2io は、そもそも採点から不確実性を再計算しません。モンテカルロ法(分布から乱数で値を何万回も引いて、結果のばらつきを調べる計算)に渡る scale は ecoinvent が合成済みの varianceWithPedigreeUncertainty から来ます。

"scale": math.sqrt(float(unc.lognormal.get("varianceWithPedigreeUncertainty"))),

openLCA — 「該当なし」を持っている

GreenDelta の openLCA は、ペディグリー行列を設定可能な「データ品質システム」に一般化しており、採点は (3;2;4;n.a.;2) のような文字列で格納されます。DQSystem.java のクラスコメントです。

 * A specific value is `n.a.` which stands for _not applicable_.

内部表現は 0 で、集約を通しても残ります。さらに、集約時に n.a. をどう扱うかが利用者の選択になっています(NAHandlingEXCLUDEUSE_MAX の2値で、既定は EXCLUDE)。

私が調べた範囲で、これが最も丁寧な設計です。ただし2点の留保があります。

  1. n.a. の意味は「この指標が当てはまらない」であって、「このに観測点が無い」ではありません。前者は採点の枠組みについての言明、後者は世界についての言明です
  2. 同じ openLCA でも、1件の交換の幾何標準偏差を出す画面のコードでは、未選択のとき黙って最悪スコアに落としています
if (selectedScore == null)
    selectedScore = indicator.scores.get(indicator.scores.size() - 1);  // 最悪スコア

SimaPro — 使われなくなった指標が、残されたまま

PRé Sustainability の SimaPro は、ecoinvent v3 が捨てた6番目の指標(sample size)を画面に残しています。ヘルプの記述です。

(Please note that Sample size is no longer used by ecoinvent v3. However, because it was used in SimaPro in the past, it was not removed in more recent releases.)

使われない指標が採点欄として残っており、利用者はそこに何かを入れることになります。ヘルプはその既定の扱いを本文に書いておらず、詳細は F1 の製品内ヘルプに送っています。筆者は製品を保有していないため、この欄が分散にどう寄与するかは確認できていません。

なお同じページは、SimaPro が幾何分散を、ecoinvent が算術分散を用いると注意しています。表の読み替えが要る箇所です。

Please note that SimaPro uses geometric variance, while ecoinvent provides arithmetic variance.

まとめると

実装「不明」の行き先
ecoinvent(EcoSpold02)5(最悪)。セルの文言に or unknown として埋め込み。専用の値なし
PACT5(最悪)。「unknown なら最悪値を適用せよ」と明文
Brightway pedigree_matrix1(最良)。例外を握りつぶす実装。テストで固定
SimaPro未確認。ecoinvent v3 が廃止した sample size の欄を残しているが、既定の扱いは公開ヘルプに記載がない
openLCAn.a.(別状態)。ただし意味は「指標の非該当」、かつ一部の画面では最悪に落ちる

同じ「分からない」が、実装によって最良にも最悪にもなります。仕様がその状態を持たないことの帰結です。


逃げ道は自由記述の欄しかない

EcoSpold02 には、不確実性ごとにコメントを付ける欄があります。

<xsd:element name="comment" type="TString32000" minOccurs="0" maxOccurs="unbounded">
  <xsd:documentation>A general comment can be made about each uncertainty
    information</xsd:documentation>
</xsd:element>

32,000文字まで書けます。「この量には観測点が無い」と書き残す場所は、ここしかありません。そしてここに書いたことは、分散にもモンテカルロにも一切影響しません。等級の外にある散文です。


まとめ

一次情報から確認できたことを整理します。

  • スコア5には「不明」が or で畳み込まれている。Weidema 自身の版(2004年ガイドライン Table 4.1)では5指標すべて、ecoinvent v2 では6指標中4指標。ecoinvent v2 の Sample size に至っては、スコア5のセルの中身が unknown の一語だけ
  • 「採点できない」を表す専用の値は無い。ecoinvent v2・v3 の本文はいずれも「score between 1 and 5」と書き、EcoSpold02 スキーマは5属性すべてが use="required"xsd:integer の1~5、nillable 指定も無い。v3 の表の列見出しは 5 (default)
  • 同じ潰し方が PACT にもある。「上流の値が unknown なら最悪値を適用せよ」と明文で規定されており、スコア5のセルにも or unknown が現れる。独立した2つの枠組みが同じ場所で同じ設計を採っている
  • ecoinvent は採点を分散に写して足し合わせ、SD95 = exp(2√σ²) で95%区間の乗数を出す。公開されている計算例 (2,2,1,5,1) は 1.25281 で、手計算で再現できた。5つの採点は1つの数に潰れ、どの指標がなぜ5点だったかは復元できない
  • 変換の表は「専門家判断に基づく分散」だと ecoinvent 自身が書いている。提案者の Weidema 自身は2004年に「既定の係数表を作ること自体が一般には意味をなさない」と書いており、1998年に推奨した用途は「内部的な品質管理」と「品質評価の伝達」だった
  • ecoinvent v2 は「インベントリ表に情報が欠けていること」を、扱えないものの筆頭に挙げていた。v3 でその項目は消えた

ペディグリー行列は「どのように得られた数値か」を等級で書く仕組みであり、「そもそも数値を得る観測点があるか」を書く仕組みではありません。等級は数値に付ける修飾なので、数値が無い状態には付けようがありません。

これを欠陥と呼ぶべきかは別の問題です。Lo Piano と Benini が指摘したとおり、この行列は元来「知識の質を評価する道具」であり、確率分布を導く道具として使われたことのほうが後付けです。書けないことは、この行列が答えようとしている問いの範囲を示していると読むほうが正確だと考えています。行列が答えるのは「この数値はどう作られたか」であって、「この数値を作る根拠が世界の側にあるか」ではありません。


検証の方法について

次は筆者が一次資料を直接取得して確認したものです。

  • Weidema ほか(2004)『Procedural guideline for collection, treatment, and quality documentation of LCA data』(ENEA)の Table 4.1 全セル、および「既定の CV 表は一般に意味をなさない」「スコアは量ではない」の各記述。PDF を取得して pdftotext で抽出
  • ecoinvent report No. 1, Data v2.0(2007)の Tab. 7.3(6指標の行列、Sample size のスコア5 = unknown)、Tab. 7.4(不確実性係数)、§7.3 の運用記述、§7.4 Limitations の3項目
  • ecoinvent Data Quality Guideline v3(2013)の Table 10.3 / 10.4(5 (default) の見出し、modified from Weidema 1998 の表題)/ 10.5、10.2 の計算式と「a variance based on expert judgement」の一文、§10.3 Limitations の2項目
  • EcoSpold02 スキーマversion="2.0.14")の pedigreeMatrix 要素、5属性の use="required" と1~5制約、25セルの <xsd:documentation> 原文、TUncertainty の「exactly one must be selected」、comment 要素の型
  • Lo Piano & Benini(2022)の受理稿 PDF(University of Reading のリポジトリ)から、引用した3箇所を原文で確認
  • Brightway pedigree_matrix 0.2.2 を PyPI からインストールし、Python 3.9.6 / macOS arm64 で calculate()AttributeError で落ちることを実行して確認
  • 本文中のすべての σ² と SD95 の値は筆者が計算したもの。ecoinvent 公開の計算例 1.25281 と一致することを確認済み
  • 書誌は Crossref API、被引用数は OpenAlex API から取得

次は確認できませんでした。

  • Weidema & Wesnæs(1996)の本文。有料で、Unpaywall は is_oa: false かつリポジトリ版無しと返します。本記事は著者自身による2004年の再掲(1998年版)と ecoinvent 版で代替しました。1996年版と1998年版の差分は未確認です
  • PACT 方法論 v3.0 の原文。引用した §4.2 の規定とスコア5のセルの文言は、並行して行われた別の調査によるもので、私自身が文書を取得して確認したものではありません
  • Ciroth ほか(2016)と Cooper & Kahn(2012)の本文。引用したのは出版社の掲載する抄録および本文冒頭部です
  • Missing information in the inventory table が v3 で削除された理由。説明する記述を見つけられませんでした
  • SimaPro が sample size 欄の値を分散にどう反映するか。公開ヘルプは製品内ヘルプに送っており、筆者は製品を保有していないため未確認です
  • Brightway と openLCA の実装細部のうち、私が自分で実行・取得していないもの(NAHandlingDataQualityShell.java など)は、並行調査の報告に依拠しています

「見当たらない」と書いた箇所は、いずれもこの確認範囲の中での話です。

参照